0222White Vision









メロハーというのは、一発で昇天させてくれるような速効力のあるものが多いのですが、だんだん良くなる言わば遅効性のものもあります。カナダ人ギタリスト、ケニー・ケイオス・ロニー(Kennee Loney、Kenny "Kaos" Loney)は、筆者にとってその遅効性作品を連発する存在です。彼の名前はメロハー界隈でよく見かけるものの、固定バンドに籍をおかずにプロジェクトで1~2枚アルバムを作っちゃ解消するということを繰り返しており、その活動の全体像はイマイチ分かりづらい。筆者の知る限りでは、1980年代半ばにバンクーバーから登場したSimon Kaosというバンドから彼のキャリアはスタートしているようです。このバンドはデモ音源は残しているものの、おそらく正規音源はリリースされていないと思われます。Simon Kaosのメンバーは、ケニー・ケイオス・ロニー(Gt)、ダーシー・ドイチュ(Vo)、アンディ・ロリマー(Key)、リック・スラヴィック(Ba)、クレイグ・ブルックス(Ds)の5人。このうち、ダーシー・ドイチュとアンディ・ロリマーが、カナダのメジャー・バンドであるPrismに引き抜かれ、バンドはあえなく消滅してしまいます。

その後ケニー・ケイオス・ロニーは、White Wolfのドン・ウルフ(Don Wilk、Donnie K. Volk、Don Wolf)のバンドGiant(後にPoint of Powerと改名。Simon Kaosのクレイグ・ブルックスも在籍)に曲を書いたり、ツアーに参加したり、ポール・レインのソロ作Stick It in Your Ear に参加するなどしています。そして、1995年に至ってダーシー・ドイチュと再度合流し、本作White Vision を発表することになります。

さて、ここからが疑問なのですが、本作収録12曲のうち8曲は、Simon Kaosと全く同じメンバーでレコーディングされています。しかもクレジットによるとその8曲が書かれたのは1987年ということになっていますが、youtubeではSimon Kaosの音源として本作収録曲"Fantasy"と"Girl With a Gun"の少なくとも2曲が確認でき、その年代は84年または85年です。ということで、この8曲はSimon Kaos時代のデモ音源か、87年に再録音されたものと推測できます。ダーシー・ドイチュとアンディ・ロリマーがPrismに引き抜かれたのが87年か88年なので、筆者はSimon Kaosのデモ音源そのものか、デモに手を加えたものではないかと考えています。プロデューサーの一人、ブライアン・"Too Loud"・マクラウドは1992年に亡くなっていることから、いずれにしてもこの8曲は他の4曲より前にレコーディングされているのは確実です。詳細は不明。どこかに情報ないかな~。

残りの4曲は、ケニー・ケイオス・ロニー、ダーシー・ドイチュ、アンディ・ロリマーは同じですが、ドラムはゲイリー・グレイス、ベースはデイヴ・ホピアに変わっており、曲のクレジットは1995年となっています。こちらは実際にWhite Visionとしてレコーディングされたものでしょう。なお、ゲイリー・グレイスは後にPrismに参加したり、Strandedで再度ケニー・ケイオス・ロニーと組んだりしています。また、デイヴ・ホピアもPokerface、The Distance、Heartland、Stranded、Message、Radio Silenceと、頻繁にケニー・ケイオス・ロニーと行動を共にしています。Pokerfaceなんていうのは、このWhite Visionのメンバーのうち、ケニー・ケイオス・ロニー、ダーシー・ドイチュ、アンディ・ロリマー、デイヴ・ホピアが参加しているわけで、同じようなメンバーでなんでいくつもの違う名前のグループやプロジェクトをやってるのかよく分かりません。カナダのメロディック・ロック・シーンは意外に狭いのかも知れませんが、そもそもSimon Kaos名義で押し通せば良さそうなものだと思うのですが。

肝心のアルバム・レビューが後回しになりました。サウンドは適度にハードで、適度に哀愁が漂い、地味ですが味わい深い音楽です。冒頭に述べたように、聴くほどにだんだん良くなってきます。ケニー・ケイオス・ロニーの書く楽曲は派手なところはなく、ギター・プレイも抜きん出て印象的なわけではないのですが、不思議と後を引くのです。クリス・ウーズィーとのThe Distanceは別として、Pokerface、Stranded、Project Xなど、この人のプロジェクトは大体似たような感じ。ボーカリストのダーシー・ドイチュの方は、田舎のおじさんのような鼻にかかった声だし、抜群の歌唱力を誇るようなタイプではありません。でも、しみじみと味わい深い、いいボーカリストです。

評価 ★★★★☆
 ★★★★★ 傑作
 ★★★★☆ 秀作
 ★★★☆☆ 佳作
 ★★☆☆☆ 凡作
 ★☆☆☆☆ 駄作
評価の基準(筆者の好み)については評価の基準についてをご覧ください。

■Tracks
01. Make Your Move (Loney, Deutsch, Hopia)
02. Make Believe (Loney, Reno, Deutsch)
03. Fantasy (Loney, Deutsch, Lorimer, Brooks, Slavic)
04. Always (Loney, Deutsch, Hopia)
05. Falling in Love (Reno, Macleod)
06. The Wind and I (Loney, Deutsch, Lorimer, Brooks, Slavic)
07. Point of No Regret (Loney, Deutsch, Hopia, Lorimer)
08. Heartbreak (Macleod, Steele)
09. Everybody Loses (Loney, Deutsch, Macleod, Brooks, Lorimer, Slavic)
10. Up All Night (Loney, Deutsch, Lorimer, Brooks, Slavic)
11. Girl With a Gun (Loney, Deutsch, Brooks, Slavic, Lorimer)
12. When You Make Love (Loney, Deutsch, Brooks, Macleod, Slavic, Lorimer)

■Personnel
Darcy Deutsch – vocals
Kennee Loney – guitars
Andy Lorimer - keyboards
Craig Brooks - drums on 3, 5, 6, 8, 9, 10, 11, 12
Gary Grace - drums on 1, 2, 4, 7
Rick Slavic - bass on 3, 5, 6, 8, 9, 10, 11, 12
Dave Hopia - bass on 1, 2, 4, 7, backing vocals
Gary Hopia - backing vocals
Tracy Masson - backing vocals

Producer – Bill Henderson, Brian Macleod, Kennee Loney (1, 2, 4, 7)