メロディアス・ハードロック名盤探訪 別館

哀愁・叙情・爽快...メロハー、AOR、ハード・ポップ、メロディック・メタルの傑作との出会いを求めて。 メロディック・ロックのアルバムをレビューしていくブログです。

クリス・オーヴァーランド

Paraphernalia / FM (1996)

0411Paraphernalia









イギリスのハードロック・バンドFMが1996年にリリースした2枚組アルバム。Disc1には前作Dead Man's Shoes制作時に録音された楽曲が11曲、Disc2にはライブ音源5曲が収録されています。実はFMは1995年のDead Man's Shoesリリース後に一旦解散しており、それが原因なのか本作は日本盤だけが発売され、本国では2003年にEscape Musicからリリースされた3枚組コンピ盤Long Time No Seeに収録されるまで陽の目を見ることはありませんでした。FMのオフィシャル・サイトのディスコグラフィでも、Dead Man's Shoesに続く6thアルバムは、再結成後のMetropolis(2010年)となっており、本作はコンピ盤扱いされています。そんなわけでこのParaphernaliaは、いわば「幻の6thアルバム」ということになります。

ライナー・ノーツによると、Dead Man's ShoesParaphernalia、一度にアルバム2枚分のレコーディングを行なったのは、スティーヴ・オーヴァーランドのソロ・アルバム制作というスケジュールがあったためとのこと(ちなみにそのソロ作Brass Monkeyは、So!というプロジェクト名義で1998年にリリースされています)。同時期の録音なので当然のように2枚ともメンバーは同じ、ブルージーでソウルフルな路線も同じです。しかも楽曲の質は甲乙付けがたいものです。このクォリティで11曲もの曲をアウトテイク扱いにしてお蔵入りさせてしまうのは、バンドとしても忸怩たるものがあったろうと推察します。収録曲は名曲・佳曲揃いなのですが、特にお気に入りのものをいくつかピックアップしてみます。

#2"I Don't Wanna (Play These Games)"
ファンキーなリズムとソウルフルでコクのある歌唱がカッコいいナンバー。

#3"After Hours"
これもファンキーですがちょっとハード。サビのメロディが印象的です。

#5"Locomotive Love"
FMはアルバムにモータウンのカバーを入れてきますが、これはオリジナルのモータウン風の曲。

#6"That's the Way"
R&Bを下敷きにしたアーシーなナンバー。アメリカンな感じですが、Humble PieやRolling Stonesもこういう音楽をやっていたわけで、「英国流解釈のアメリカン・ロック」というのもブリティッシュ・ロックの一つの伝統ですね。

#9"Heavy Heart"
カントリー・ロックやフォーク・ロックの要素の入ったナンバー。前作の"Tattoo Needle"の路線です。メジャー・キーの明るい曲ですが、どこか微妙な苦味が感じられて心に残ります。

#10"Three Seconds"
Bad Companyの"Ready for Love"(オリジナルはMott the Hoople)やFreeの"Be My Friend"に通じる哀感に満ちたナンバー。スティーヴ・オーヴァーランドのエモーショナルな歌唱がとにかく素晴らしい。

さてDisc2の方ですが、これは1989年Tough It Outツアー時の英国内ライブ音源といういささか古いものです。Disc1の本編との音楽性の差や、音質が良くない点が気になりますが、オマケと考えればありがたいものだと思います。若々しく溌剌とした演奏・歌唱になんとなくニッコリしちゃいました。ちなみに前述したLong Time No Seeではライブ音源はカットされ、換わりに"Burning My Heart Down ('93 Version)"、"Don't Stop ('93 Version)"、"Frozen Heart ('93 Version)"の3曲がボーナスとして収録されています。3曲とも日本で企画編集されたコンピ盤Closer to Heaven(1993年)に収録されているものと同じです。Long Time No SeeParaphernaliaAphrodisiacに加え、単独リリースのないLive at the Astoriaを一度に聴けるので、熱心なファンにはこちらもお薦めです。筆者は日本盤ParaphernaliaLong Time No Seeも両方買ってしまいました。

評価 ★★★★★
 ★★★★★ 傑作
 ★★★★☆ 秀作
 ★★★☆☆ 佳作
 ★★☆☆☆ 凡作
 ★☆☆☆☆ 駄作
評価の基準(筆者の好み)については評価の基準についてをご覧ください。

■Tracks
Disc1
01. Caught in the Innocence
02. I Don't Wanna (Play These Games)
03. After Hours
04. I'll Be There
05. Locomotive Love
06. That's the Way
07. Promised Land
08. Tempted
09. Heavy Heart
10. Three Seconds
11. Finish What We Started
All songs Written by S.Overland, M.Goldsworthy, P.Jupp, A.Barnett, J. Davis
Except #3, #6,  Written by S.Overland, M.Goldsworthy, P.Jupp, A.Barnett
#7, #8 Written by S.Overland, M.Goldsworthy, P.Jupp, A.Barnett, C. Olins
Disc2
01. Tough It Out  (S. Overland, C. Overland, J. Harms)
02. Everytime I Think of You (S. Mullen, J. Cesario, G. Jones)
03. Bad Luck (S. Overland, C. Overland, D. Child)
04. Heart of the Matter (S. Overland, C. Overland)
05. Burning My Heart Down (S. Overland, C. Overland, D. Child)

■Personnel
Disc1
Steve Overland - Lead Vocals, Guitar
Pete Jupp - Drums, Vocals
Merv Goldsworthy - Bass, Vocals
Andy Barnett - Lead Guitar, Vocals
Jem Davis - Keyboards
Disc2
Steve Overland - Lead Vocals, Guitar
Chris Overland - Lead guitar, Vocals
Merv Goldsworthy - Bass, Vocals
Pete Jupp - Drums, Vocals
Didge Digital - Keyboards

Producer - FM
 

Tough It Out / FM (1989)

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イギリスのメロディアスハード・バンドFMの1989年リリースの2作目。1stアルバムIndiscreetの延長線上のサウンドで、いかにも80年代らしい都会的なメロハー/AORに仕上がっています。プロデューサーには、ホール&オーツやドッケンなど数多くのアルバム制作で実績のあるニール・カーノン(Neil Kernon)を起用。また、数々のヒット曲を生み出してきたデスモンド・チャイルド(Desmond Child)を曲作りに関与させるなど、レーベルのやる気(売る気)満々な様子が窺えます。その甲斐あって、1st以上に充実した楽曲と演奏は、何度聴いても飽きるということがありません。スティーヴ・オーヴァーランドのソウルフルな歌唱はますます旨味を増し、マーヴ・ゴールズワーシー&ピート・ジャップのコンビは相変わらず心地よいグルーヴを生み出しています。クリス・オーヴァーランドの歌心を感じさせるギターも健在です。ディジ・ディジタルのキーボードも、出しゃばり過ぎず曲に彩りを添えていて好感が持てます。初期FMの中では文句なく最高の出来ではないでしょうか。バッキング・ボーカルに、ストレンジウェイズ、ジャイアントなどで知られるテリー・ブロックと、女性メロハー・ボーカリストの第一人者ロビン・ベックが参加しているのもうれしいです。

#4"Someday (You'll Come Running)"は、ジュディス・ランドールとロビン・ ランドール (Judithe & Robin Randall)という珍しい母娘ライターコンビと、"Island Nights"で有名なAOR系シンガー・ソングライター、トニー・シュート(Tony Sciuto)の作品。アメリカのメロハー・バンドAirkraftのアルバムIn the Red(1991)や、元King Kobra、Signal、現Unruly Childのマーク・フーリー(Mark Free)のソロアルバムLong Way From Love(1993)でも取り上げられています(このアルバムは全曲 ランドール 母娘が書いています)。さらに、ロビン・ ランドール が、自身のグループVenus & MarsのGrand Trine(1994)でセルフカバーしています。それから、#5"Everytime I Think of You"は、Mr. Bigのエリック・マーティン(Eric Martin)のソロ・アルバムI'm Only Fooling Myself(1987)に収録されていた曲。同一曲を複数のアーティストのバージョンで聴き比べると、アレンジや歌唱の違いにそれぞれの個性が感じられて楽しいものです。

なお、2012年にイギリスの再発レーベルRock Candyより、ボーナス・トラック5曲が追加されたリマスター盤も発売されています。

評価 ★★★★★
 ★★★★★ 傑作
 ★★★★☆ 秀作
 ★★★☆☆ 佳作
 ★★☆☆☆ 凡作
 ★☆☆☆☆ 駄作
評価の基準(筆者の好み)については評価の基準についてをご覧ください。

■Tracks
01. Tough It Out (S. Overland, C. Overland, J. Harms)
02. Don't Stop (M. Goldsworthy, P. Jupp, D. Digital)
03. Bad Luck (S. Overland, C. Overland, D. Child)
04. Someday (You'll Come Running) (J. Randall, R. Randall, T. Sciuto)
05. Everytime I Think of You (S. Mullen, J. Cesario, G. Jones)
06. Burning My Heart Down (S. Overland, C. Overland, D. Child)
07. The Dream That Died (S. Overland, C. Overland)
08. Obsession (M. Goldsworthy, P. Jupp, D. Digital)
09. Can You Hear Me Calling? (S. Overland, C. Overland)
10. Does It Feel Like Love (S. Overland, C. Overland)
11. Feels So Good (S. Overland, C. Overland)

■Personnel
Steve Overland - Lead & backing vocals, guitar
Merv Goldsworthy - Bass, backing vocals
Pete Jupp - Drums, backing vocals
Chris Overland - Lead guitar
Didge Digital - Keyboards

Terry Brock - Backing vocals
Robin Beck - Backing vocals

Producer - Neil Kernon

Tough It Out + Bonus Tracks
FM
Rock Candy
2012-06-22


Indiscreet / FM (1986)

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イギリスのメロディアス・ハードロック・バンド、FMの1986年リリースの1stアルバム。後年、FMはよりブルージーな方向にシフトしますが、デビュー当時は、多分にアメリカ市場を意識したポップでソウルフルなハードAORともいうべきサウンドを志向しています。結局は路線変更してからのほうがむしろ売れたという皮肉な結果となるわけですが。動画を見ても、音もさることながら、髪型といい服装といい、気恥ずかしくなるほど80年代モロ出しです。まあ、当時流行のありきたりなサウンドと言ってしまえばそれまでですが、スティーヴ・オーヴァーランドの歌の異常な上手さ、リズム隊のセンスの良さ、メロディ・ラインの秀逸さという3つの点で、他の似たようなバンドを遥かに凌駕しています。サウンドの変遷とメンバーチェンジはあっても、スティーヴ・オーヴァーランドとリズム隊のマーヴ・ゴールズワーシー&ピート・ジャップの3人は、不動のラインナップで現在まで続いているのも頷けます。このアルバムもコマーシャルに過ぎるかなという印象はありますが、四半世紀以上過ぎた今でも色褪せず、十分に楽しめる優れた作品であることは間違いありません。

FMの結成の経緯を整理しておくと、元々クリス・オーヴァーランドと弟のスティーヴ・オーヴァーランド、そしてピート・ジャップの3人はWildlifeというバンドのメンバーでした。このWildlifeはChrysalis Recordsと契約し、1980年にアルバムとシングルをリリースしたようですが、泣かず飛ばずでいったん解散します。そしてFree/Bad Companyのドラマーだったサイモン・カークを加えてバンドは組み直され、新生WildlifeはLed ZeppelinのSwansongから1983年にアルバムを1枚リリースしますが結局解散。一方、ピート・ジャップはSamson(Iron Maidenのブルース・ディッキンソンやクライヴ・バーが在籍していたバンド)のメンバーとして活動していましたが、このSamsonも1984年にいったん解散。そして、オーヴァーランド兄弟とピート・ジャップが再合流してFMの結成へと至ります。この新バンド結成にはSamsonのマネージャー、デイヴ・キングが関与しているようで、Samsonのベーシストだったマーヴ・ゴールズワーシーがピート・ジャップとともに参加していること、デイヴ・キングが本アルバムのプロデュースを担当していることからも、その辺りの事情が窺えます。もう一人のメンバー、ディジ・ディジタルことフィル・マンチェスターのキャリアは不明です。

なお、本アルバムの#1"That Girl"の共作者の一人としてクレジットされているアンディ・バーネットはFMの最初期のメンバーで、クリス・オーヴァーランドが脱退した後、ギタリストとしてバンドに再加入することになります。このアンディ・バーネットは、Iron Maidenのエイドリアン・スミスやデイヴ・マーレイが1970年代に在籍したUrchinというバンドにいたことがあり、80年代に入ってからはThe Entire Population of HackneyプロジェクトでIron Maidenのメンバーと共演したり、ASAPでもエイドリアン・スミスと一緒にプレイするなど、何かとIron Maiden人脈に縁のある人です。そんな繋がりからか、"That Girl"はIron Maidenにカバーされています。これがまた、ボーカルがブルース・ディッキンソンだし、モロに「ヘビメタ」で別の曲のようにも聴こえますが、意外にいい感じ。当時のイメージで言えば、軟派なFMの曲を、硬派のIron Maidenがカバーするというのもなんだか面白いです。また、FM、Samson、Iron Maidenという3つのバンドの関係者が様々に絡み合ってきた歴史には興味深いものがあります。

なお、2012年にイギリスの再発レーベルRock Candyより、ボーナス・トラックが追加された2枚組リマスター盤も発売されています。

評価 ★★★★★
 ★★★★★ 傑作
 ★★★★☆ 秀作
 ★★★☆☆ 佳作
 ★★☆☆☆ 凡作
 ★☆☆☆☆ 駄作
評価の基準(筆者の好み)については評価の基準についてをご覧ください。

■Tracks
01. That Girl (M. Goldsworthy, P. Jupp, A. Barnett)
02. Other Side of Midnight (M. Goldsworthy, P. Jupp)
03. Love Lies Dying (M. Goldsworthy, S. Overland, P. Jupp, C. Overland, D. Digital)
04. I Belong to the Night (S. Overland, C. Overland)
05. American Girls (S. Overland, C. Overland)
06. Hot Wired (M. Goldsworthy)
07. Face to Face (S. Overland, C. Overland, P. Jupp)
08. Frozen Heart (M. Goldsworthy, S. Overland, P. Jupp, C. Overland, D. Digital)
09. Heart of the Matter (S. Overland, C. Overland)

■Personnel
Steve Overland - Lead vocals, guitar
Merv Goldsworthy - Bass, backing vocals
Pete Jupp - Drums, backing vocals
Chris Overland - Lead guitar
Didge Digital - Keyboards

Producer - FM, Dave King

Indiscreet
FM
Rock Candy
2012-06-22


Wildlife / Wildlife (1983)

0031Wildlife

元フリー、バッド・カンパニーのサイモン・カーク(Ds)が、後にFMを結成するスティーヴ・オーヴァーランド(Vo)とクリス・オーヴァーランド (Gt)、さらにフィル・スーサン(Ba)、マーク・ブーティ(Key)と組んだワイルドライフの唯一のアルバム。プロデュースはバドカンのミック・ラルフス、リリースはレッド・ツェッペリンのSwan Songレーベルからです。フリー、バドカン好きの筆者はサイモン・カークの新バンドと聞いて当時LPを買ったクチですが、これが中々の好盤です。

音のほうは明らかにオーヴァーランド兄弟が主導しているので、バドカンよりFMに近い、メロハー寄りの音です。ボトムの重いFMというイメージでしょうか。 ロックの基本は8ビートですが、サイモン・カークは変な言い方ですがその「基本」の名手です。派手なことは一切せず、やや後ノリ気味に、どっしりしたシンプルな8ビートを叩き続ける。このアルバムでも、シンプルだからこそ、頭でなく体で感じるロック・ミュージックならではグルーヴが生々しく伝わってきます。

スティーヴ・オーヴァーランドのボーカルは、この時点で既に出来上がっています。最初から上手すぎます。ブルースやR&Bからの影響が濃厚な、ソウルフルで渋い歌いまわしは、やややマイルドなポール・ロジャースという感じ。おそらくサイモン・カークがスティーヴ・オーヴァーラ ンドと組んだ理由は、彼がポール・ロジャース・スタイルのシンガーだからでしょう。クリス・オーヴァーランドのギターも、もしかしたら少しポール・コゾフ やミック・ラルフスを意識したのかもしれないと思わせるような、非常にシンプルながら味のあるプレイです。全体として、ゴテゴテしたデコレーションやギミックのない、80年代のハードロックとしては貴重なほど飾り気のないサウンドだと思います。シンプル・イズ・ベスト!

このアルバム1枚を残してバンドは解散、サイモン・カークはポール・ロジャース抜きでのバドカン再開、オーヴァーランド兄弟はFM結成、このころまだ駆け出しだったフィ ル・スーサンは、オジー・オズボーンなど数多くのアーティストとのセッションの仕事へと、メンバーはそれぞれの道を歩んでいくことになります。


評価 ★★★★☆
 ★★★★★ 傑作
 ★★★★☆ 秀作
 ★★★☆☆ 佳作
 ★★☆☆☆ 凡作
 ★☆☆☆☆ 駄作
評価の基準(筆者の好み)については評価の基準についてをご覧ください。

■Tracks
01. Somewhere in the Night (Steve Overland, Chris Overland)
02. Just a Friend (Steve Overland, Chris Overland)
03. Surrender (Steve Overland, Chris Overland)
04. Charity (Simon Kirke)
05. One Last Chance (Steve Overland, Chris Overland)
06. Taking a Chance (Steve Overland, Chris Overland)
07. Haven't You Heard the News (Steve Overland, Chris Overland)
08. Midnight Stranger (Steve Overland, Chris Overland)
09. Rock and Roll Dreams (Steve Overland, Chris Overland)
10. Downtown Heartbreak (Steve Overland, Chris Overland)

■Personnel
Simon Kirke - drums, percussion, sax on "Charity"
Chris Overland - lead guitar
Phil Soussan - bass, backing vocals
Mark Booty - keyboards, backing vocals
Steve Overland - lead and backing vocals, guitar

Producer - Mick Ralphs
 
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