0078Takin' It to the Streets
イギリスのハードロック・バンドFMの3rdアルバム。前作がレーベル側の思惑ほどには売れなかったためかメジャー契約を切られ、マイナー・レーベルからのリリースとなっています。前二作のハードAORとも言うべきサウンドから一転して、かなりブルージーでソウルフルなハードロックとなりました。この路線変更に関しては、1stと2ndのキャッチーな曲調はレーベル側から要求されたもので、3rdからは本来自分たちがやりたかった音を出せるようになったから、というように言われています。しかし、マーヴ・ゴールズワーシーとピート・ジャップがSamson解散~FM結成にあたって「コマーシャル色の強いロック」を目指したという事情を考え合わせると、初期FMのサウンドが一方的にメジャー・レーベルから強要されたものとも考えにくいのではないでしょうか。もっとも、バンドの目指した「コマーシャル色」とレーベル側の考えるそれが一致していたのかどうかは分かりませんが。いずれにしても、メジャー・レーベルを離れ、リード・ギターもクリス・オーヴァーランドから最初期に在籍したアンディ・バーネットにチェンジし、セルフ・プロデュースによるストレートなサウンドで心機一転を図った、まさにバンドにとって節目のアルバムとなっています。この手のアーシーで骨太なサウンドだと、1stと2ndで見られた「キラキラ・シンセ」による80年代的装飾は不要となり、ディジ・ディジタルはオルガンを白玉で流すことくらいしか出番がなくなりました。そのせいかどうか、彼はこのアルバムを最後にバンドを脱退することになります。

1曲目の"I'm Ready"からAC/DCを思わせるヘヴィでブルージーなロックン・ロール。新生FMの志向性が明確に示されています。続く2曲目はなんとホーン・セクション入りで、ソウルの名曲「悲しいうわさ」("I Heard It Through the Grapevine")をファンキーかつハードにブチかましてくれます。言わずと知れたグラディス・ナイト&ザ・ピップス(1967)、マーヴィン・ゲイ(1968)の大ヒット・ナンバー、このカッコよすぎるカヴァー曲が本作のハイライトだと思います。それにしても、スティーヴ・オーヴァーランドの歌の上手さには脱帽です。水を得た魚のようにコブシをぐるんぐるん回わしまくりたおしています。スティーヴ・オーヴァーランドは元々ポール・ロジャース系統のボーカリストなので、こういうサウンドがしっくり来るのは当然としても、リズム隊も出戻りギタリストもメタル畑でキャリアを積んできたにも関わらず、昔っからこんな音を演っていたかのような手馴れた演奏振りなのが驚き。曲作りに関しても、前二作より更にリズム隊の二人の重みが増し、マーヴ・ゴールズワーシーに至ってはスティーヴ・オーヴァーランドより関与した曲の数が多くなっています。このアルバム収録曲で比較的前作までの雰囲気を残している2曲、#8"Crack Alley"と#11"The Thrill of It All"を彼単独で書いているというのも興味深いです。

さて、筆者としては前二作のようなメロハーはもちろん好き、本作もまた大好きということで、路線変更そのものに否定的ではありませんが、ポップなメロディを渋く歌うという点にスティーヴ・オーヴァーランドとFMならではの魅力があったと思っているので、若干の寂しさと言うか物足りなさを感じたのも確かです。なお、本作にはゲストとしてクレイグ・ジョイナーというギタリストが参加しています。当時FMと同じMusic for Nationsレーベルに所属していたRomeo's Daughterのメンバーで、このバンドのアルバムDelectable (1993)にはマーヴ・ゴールズワーシーがゲスト参加しているようですが、筆者は未聴ですので詳しいことは分かりません。

評価 ★★★★☆
 ★★★★★ 傑作
 ★★★★☆ 秀作
 ★★★☆☆ 佳作
 ★★☆☆☆ 凡作
 ★☆☆☆☆ 駄作 
評価の基準(筆者の好み)については評価の基準についてをご覧ください。

■Tracks
01. I'm Ready (S. Overland)
02. I Heard It Through the Grapevine (N. Whitfield/B. Strong)
03. Only the Strong Survive (M. Goldsworthy/P. Jupp/S. Overland/A. Barnett)
04. Just Can't Leave Her Alone (M. Goldsworthy)
05. She's No Angel (M. Goldsworthy/P. Jupp/S. Overland/D. Digital)
06. Dangerous Ground (M. Goldsworthy/P. Jupp)
07. Bad Blood (M. Goldsworthy/P. Jupp/S. Overland)
08. Crack Alley (M. Goldsworthy)
09. If It Feels Good (Do It) (M. Goldsworthy/P. Jupp/S. Overland)
10. The Girl's Gone Bad (M. Goldsworthy/P. Jupp/S. Overland/A. Barnett)
11. The Thrill of It All (M. Goldsworthy)
12. Hot Love (M. Goldsworthy/P. Jupp/S. Overland) [bouns]
13. Fuel to the Fire (S. Overland) [bouns]

■Personnel
Steve Overland - Lead vocals, guitar, acoustic guitar
Merv Goldsworthy - Bass, vocals
Pete Jupp - Drums, vocals
Didge Digital - Keyboards
Andy Barnett - Lead guitar, slide guitar, vocals

Backing vocals - Steve Overland, Andy Barnett, Pete Jupp, Leigh Matty, Craig Joiner, Sonia Jones
Guitar Solos - Andy Barnett, Steve Overland, Craig Joiner

The 'Raging' Horns - Martin Shaw, Dennis Rollins, 'Baps' McMillan, Kenny Wellington
Horn Arrangement - Augustus Gowalski

Producer - FM